2017年7月20日木曜日

「タクシーってのは、常にお化け乗せてんねん」

「暑いですねぇ…」

年配の先輩とも自然に話せるようになってきた。

「ほんまに暑いなぁ、こんな時期は夜になると涼しくなるからタクシーは良いもんや」

「涼しくなる?」

先輩は気持ち良さそうにタクシーにホースで水をぶっかけながら、嬉しそうに言った。

「お化けが乗ってきたら涼しくもなるやろ」

なんや、そんなことか…

「ハハハ…」

おじいさんと話を合わせるのも一苦労やな

「なんや、お前お化け乗せたことないんか?」

「ありませんよ、そんなもの」

タクシーの怪談話とかよく聞くが、少なくとも俺がタクシーに乗り始めてから、そんな経験したことはない。

「お前(タクシー)乗り始めてなんぼや」

「2年ほどです」

「2年かぁ…。まだないか。タクシーってのはな。常にお化け乗せてんねん。乗せてる客についてることもあるし、客乗せてない空車んときに乗ってることもある。それが見えてくるのには少し時間かかるんかなぁ…まあ、心配せんでも、そろそろや」

「いえ、何も心配してませんが…」

2年もタクシー会社にいると、先輩のほら話にも慣れてくる。

えらい遠くまで行っただの、幽霊見ただの…最初は、

「へぇー!すごいですね」

なんて、真顔で聞いてたが、大勢乗務員がいる中で、目立つためにそれぞれ話を大きくしてるのが分かってきて、対応にも慣れてきた。

俺はあんな風にはなりたくない

と思っていた。

そんな日の夜やった。

俺の乗務している地域は、駅の近くにいわゆるニュータウンはあるものの、数10分走ればすぐに山の中に入っていくような地方都市である。

駅から乗車した女性は、

「××まで、お願いします」

普通やった。

乗ってきたときは、特別な感じもなく、ただその行き先がある程度距離のある場所だったことで、微妙にテンションが上がった。

「分かりました」

後部座席に乗った女性は40前後やろか、年齢のせいか少し落ち着いた雰囲気を受けた。

ロータリーを回って駅を出ると、女性はずっと窓の外を見ていた。

横顔が90度とすれば、ルームミラーから見る女性の顔は「横顔以上」やった。

その横顔以上を見て、

「タクシーってのは常にお化け乗せてんねん」

先輩の言葉を思い出した。

タクシーに乗車する女性の割合は、昼間は買い物や病院通いのおばあちゃん中心だが、夜になるとグッと減る。

夜は帰宅の男性サラリーマンが多く、

女性は1割、2割程度やろか

地域にもよるが、少ないことには変わりはないだろう。

そんな中でも夜は性犯罪を恐れる若い女性の比率が高い。

が、この40前後というところは、非常に「微妙」である(この年代になれば、性犯罪のリスクはなくなる言いたいんか)。

微妙で済ませておけば良いのだが、何か気になってしまう…

「暑いですねぇ」

話かけてしまった…

基本的に夜は客も一日の仕事を終えて疲れてるし、なるべくこちらから会話を投げないようにしているのだが、不思議と言葉が出てしまった。

「え?…はい」

女性は、年甲斐もなく(怒られんぞ、どんだけアラフォー馬鹿にしてんねん)白いノースリーブのシャツを着ていた。

「一日仕事ですか」

「えぇ…、はい」

返答に困っている。

通常なら、ここでフェードアウトするのがベテランドライバーなんだろうが、まだ半人前の若僧は続けてしまった。

「大変ですねぇ…こんな時間に帰って、また明日も仕事ですか」

俺らは明日休みやしー、なんて優越感で言ったわけでもなかったが、

「いえ、帰るんじゃありません。ちょっと見に行こうと思って」

「見に行く?」

「はい、前の旦那を」

to be continued